これからの獣医療を考えるうえで、「伴侶動物の高齢化」は無視できないテーマです。
小動物の慢性疾患の予防や良質なフードの開発、治療技術の発展により、今後もますます高齢の動物が増え続けることが予想されます。
それに伴い、獣医師の先生には高齢動物に対する幅広い治療技術が求められることは言うまでもありません。先生も、日々最新の技術を学び、より良い治療を提供できるよう努力されているはずです。
しかし、これだけ治療技術が進歩したにもかかわらず、「ある病気」の動物は満足のいく治療を受けられないまま死期を迎えている現実があります。
がんの治療法と言えば、外科療法、化学療法、放射線療法などの標準治療が一般的です。
これらの治療法を組み合わせ、がんの治療に取り組んでいくのですが、高齢の動物には副作用のリスクが高過ぎるため適用されないケースも多々あります。
また、外科治療においては、全身麻酔下で体の一部を切除することから、「できるなら選択したくない」と考える飼い主さんもたくさんいます。
つまり、飼い主さんの心情を汲み取りながら、できる限りの治療をおこなう必要があるということ。これは本当に難しい問題です。
しかし、高齢動物が増え続ける今、末期がんや悪性腫瘍など治療法のない病気であっても、入院や副作用に苦しむことなく、できる限り長く、通常どおりの生活が送れる治療が求められていることは間違いありません。
「そうは言っても、具体的に何ができるのか?」と、思うかもしれませんが…
2014年、犬のがん治療は大きな転機を迎えました。
獣医療における「分子標的治療」が、新たなステージに入ったのです。
日本初の犬用分子標的薬である「トセラニブ(商品名:パラディア)」が承認、発売されたのは、先生も記憶に新しいと思います。
分子標的治療は、人医療において20年近い歴史があります。それまで主流だった標準治療、緩和療法に加わるがん治療の新たなアプローチとして研究され、その優れた治療効果は多くの症例で報告されています。
そのため、犬用の分子標的薬の登場は、獣医療業界に大きなインパクトを与えることになりましたが…
先生は、その決定的な違いをご存じですか?
通常おこなわれる抗がん剤治療は、最大耐用量を投与し、短期間でがん細胞を死滅させる方法が基本です。
しかし、この方法には大きな問題点があります。
それは、投与された抗がん剤は、がん細胞も正常細胞も分裂が盛んな細胞であれば手当たり次第に攻撃を仕掛けること。つまり、がん細胞が先に死ぬか、正常細胞が先に死ぬかという我慢比べのような治療なのです。
そのため正常細胞がボロボロになるまで攻撃された結果、重篤な副作用を引き起こすケースもめずらしくありません。
一方の分子標的薬がターゲットにするのは、「主にがん細胞」です。
がん細胞を狙い撃ちすることで、抗がん剤治療よりも副作用が小さく、外科療法や化学療法、放射線療法の適用されない高齢の患者にも使用できることが最大のメリットです。両者の違いをわかりやすくしたのが、下の図になります。
副作用のリスクが低く、標準治療が適用されない症例にも使える犬用の分子標的治療は、「飼い主さんが待ち望んでいた治療法」と言っても大げさではありません。
この先、動物の高齢化が進むにつれ重要度の高まる治療法ですが、こちらにもひとつだけ「大きな問題点」があります。
それは、分子標的治療の適用例や副作用に対する正しい対処法など、臨床獣医師が知っておくべきポイントが、いまだ成書で明らかにされていないこと。
つまり、「学びたくても学べない」状況にあるのです。そのため、分子標的治療を使いこなしている獣医師の先生は、まだそれほど多くありません。
そこで今回、私たちはこの問題を解決するため、分子標的治療の基礎から具体的な症例、副作用への対処法まで学べるDVD教材を制作しました。
講師は、小動物の分子標的治療において多くの実績を持つ、がん治療のスペシャリストである山﨑裕毅先生です。
犬用の分子標的薬である「パラディア」の発売から5年が経過しました。発売当初は、獣医療を専門とした分子標的治療の情報はほとんどなく、人医療を基盤に独学で情報を集めながら経験と実績を積むしかありませんでした。
そのため、「興味はあるが、手がだせない」という先生もたくさんいらっしゃったのではないでしょうか。
しかし5年が過ぎ、ようやく分子標的治療の症例、使用報告例、論文なども増えてきました。その結果、より安全で有用性の高い使用法が判明してきたのです。
たとえば…
パラディアは通常、トセラニブとして「体重1kg当たり3.25mg」が承認薬用量とされています。
しかし、実際にこの承認薬用量で使用した場合、食欲不振や嘔吐、下痢などを頻発することが多くの症例からわかってきました。そのため承認用量の範囲内とはいえ、この用量で使用するときは注意しなくてはなりません。
また、承認薬用量より低用量でも、十分な治療効果が認められることもわかってきました。
「2.5mg/kg EOD」で使用した症例と「3.25mg/kg EOD」で使用した症例では、ほとんど同じ治療効果が得られたという結果もでています。
ですので、現在は承認薬用量である3.25mg/kg以下で使用するのが一般的です。
さらに今では、投与量によって標的範囲が変わることもわかっています。
具体的には、低用量で使った場合はVEGFR1&2、PDGFRα&β、KITなどを標的として攻撃し、高用量の場合はRETをメインに攻撃するのです。
ただし、「どの症例に低用量で使うのか」「どの症例に高用量で使うのか」という答えは、5年が経過した今も明確な答えがありません。
そのため実際の治療においては、安全性の高い低用量での使用を優先的に考えていく必要があります。
また、分子標的治療は従来の抗がん剤治療に比べると重篤な副作用のリスクはかなり低いのですが、決して副作用がゼロというわけではありません。
「それなら、分子標的治療もがん治療の決定打にはならないのでは?」と思うかもしれませんが…
まず、以下のグラフをご覧ください。
これは犬の腺癌48例から、血圧と好中球数の変化が生存期間にどう影響するかを山﨑先生が実際に調査したものです。
左のグラフの赤で示しているのが「パラディアを投与して血圧が98以下の症例」です。もう一方の青で示したものが「血圧が98以上の症例」になります。
このグラフから、パラディアを投与して血圧が上昇した症例からは、生存期間の延長が認められたことがわかります。
また右のグラフは、同じように好中球数を比較したものです。好中球が減少した青の症例は、あまり減少しなかった赤の症例と比べて生存期間が有意に延長していることがわかります。
この結果から言えることは、副作用は必ずしもリスクではないということ。
ある程度の副作用がみられるということは、その反面、治療効果があらわれているひとつの証拠。つまり、パラディアの投与による好中球数の減少は、抗腫瘍効果があらわれている証拠と言えるのです。
大事なことは、分子標的治療による副作用の種類と正しい対処法を把握しておくこと。そうすることで、分子標的治療はより安全に、高い治療効果を発揮できるのです。
分子標的治療を取り入れようとしたとき、多くの先生が悩む問題があります。
たとえば、トセラニブを投与するタイミングや休薬期間、他の薬剤との併用などです。今回は、これらの問題も、具体的な症例を見ながら解決できます。
以下に、Q&A形式で解決できる問題の一例をご紹介します。
これらのよくある悩みも、山﨑先生のわかりやすい説明で解決することができます。今回の教材から先生が得られるメリットをまとめると…
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