2017年の10月ごろ。大阪府内の8名の獣医師から、犬レプトスピラ症を疑う11症例の届け出がありました。
犬の年齢は3歳~13歳と幅がありますが、すべての犬に黄疸、肝不全、腎不全などの症状が認めらました。
治療を試みましたが、回復したのは2頭のみ。9頭は治療に反応せず亡くなりました。
死亡した9頭のうち4頭は、2種または3種のレプトスピラ抗原を含む混合ワクチンを接種していたと言います。
つまり、ワクチンを接種していたにもかかわらず、レプトスピラ症に感染し、生命を落としたのです。
近年、人獣共通感染症の報告件数が増えています。これは、実際に感染する犬猫が増えているだけでなく、人獣共通感染症に対する獣医師の意識が高まり、適切に検出されるようになったことも一因と考えられています。
しかし、ひと言で人獣共通感染症と言っても、その種類はさまざまです。
たとえば、
・接触感染するもの(レプトスピラ症、狂犬病)
・糞口感染するもの(オウム病、Q熱)
・咬傷、ひっかき傷から感染するもの(猫ひっかき病、パスツレラ症)
など、例を挙げるとキリがありませんが…
人獣共通感染症の中には、動物はもちろん、ヒトにもとても重く、危険な症状が出るものがあります。
発熱や食欲不振くらいなら良い方で、肺、肝臓、腎臓などの多臓器不全を引き起こしたり、血液透析が必要になるケースもあります。
中には、ヒトでも急速に悪化し、死亡する感染症もあるほどです。
言うまでもなく、獣医師の仕事は動物の生命を救うことです。
そのためには、何よりもまず先生ご自身の生命を守らなければなりません。そして、先生ご自身の生命を守ることは、スタッフと飼い主さんの生命を守ることにもつながります。
だからこそ、人獣共通感染症を正しく理解し、予防する方法を知って欲しいのです。
しかし、人獣共通感染症の診断と治療、予防と対策を体系的に学べる機会はほとんどありません。その上、人獣共通感染症の中には、近年発見された新しい感染症もありますので、大学や専門書で学ぶこともできないでしょう。
そこで今回、感染症のスペシャリストである村田先生を講師にお招きし、人獣共通感染症をわかりやすく学べる教材をご用意しました。
今回の教材のテーマは、「人獣共通感染症」です。
鼠咬症や猫ひっかき病、パスツレラ感染症、コリネバクテリウム・ウルセランス症などをはじめ、近年注目されているSFTS(急性熱性血小板減少症候群)の対策まで学べます。
つまり、この教材一つで日常診療で遭遇する多くの人獣共通感染症の診療と対策が学べるわけですが、その中でも、とくに多くの獣医師が興味を寄せる感染症があります。
村田先生が、この感染症をテーマにセミナーをおこなうと、200人規模の大会場が即座に満席になるほどです。
その感染症とは、冒頭でもお話した…
レプトスピラ症は、病原体レプトスピラにより引き起こされる人獣共通感染症です。
レプトスピラに感染しているネズミなどの野生動物の尿や、尿に汚染された水や土を介し、口や皮膚から感染します。
獣医師がレプトスピラ症を発見したときは、家畜伝染病予防法に基づき、都道府県に届け出しなければなりません。
犬のレプトスピラ症は西日本に多い傾向にありますが、全国的に発生が認められており、毎年20~52頭程度の届け出があります。
しかし、不顕性感染の猫をはじめ、突然死するケースや診断が不十分なケースなどを含めると、毎年、何百頭もの動物が感染していると考えられています。
レプトスピラ症に感染すると、どんな症状が出るのでしょうか?
ヒトが感染した場合の特徴的な症状は、強膜の充血です。他にも黄疸、腎障害、DIC(播種性血管内凝固)などの症状があらわれます。
感染者の中には、なんとか生命は助かったけれど、重度の肝炎に一生苦しめられたり、透析を続けなくてはならなくなったケースも報告されています。
犬の場合もヒトと同じように黄疸、肝臓と腎臓の障害、DICなどがあらわれますが、カニコーラ型に感染すると舌壊死がみられる特徴があります。
重症化するほど症状は深刻化し、死亡率も高くなる傾向にあるため、レプトスピラ症は早期の診断と治療が重要になるのですが…
たとえば、犬で以下の症例が来院した場合、レプトスピラ症を疑う必要があります。
・溶血性の黄疸、発熱
・急性腎障害(腎不全)、肝酵素上昇
・舌壊死
・強膜充血、ぶどう膜炎
・血色素尿、血便、粘膜出血
・虚脱、敗血性ショック症状
これらがレプトスピラ症を疑うべき、主な症状になります。
また、レプトスピラ症は、ネズミなどの尿に汚染された水から感染するため、
・水辺に行ったか?(水に入ったか?)
・湿地帯に行ったか?(田んぼ、畑など)
・ネズミのいる環境で生活していないか?
など、問診時にはこれらも忘れずに聞くことが重要です。
レプトスピラ症の予防には、ワクチンの接種が推奨されています。
ですから、「混合ワクチンを接種すれば、大丈夫でしょ?」と思うかもしれません。
結論からお伝えすると、ワクチンを接種しても、レプトスピラ症に感染します。
なぜなら、レプトスピラ症の感染を防ぐワクチンは、血清型により異なるから。
つまり、レプトスピラ症を防ぐには、それぞれの血清型に応じたワクチンが必要なのです。しかし、2019年時点でレプトスピラ症は24血清群、250種以上の血清型が知られています。
残念ながら、現在の犬レプトスピラワクチンは、日本国内で発生の多い血清型をすべてカバーできないのです。
ワクチンを接種したとしても、レプトスピラ症を完全に防ぐことはできません。しかし、これはワクチンが不要という意味ではありません。
たしかに、今の犬レプトスピラワクチンには、カバーできない血清型もあります。ですが、ワクチンを接種することで感染を防げる血清型があるのも、また事実です。
レプトスピラ症は、ヒト、犬ともに死亡リスクのある感染症です。そのため、先生が感染した場合、生命を落とす可能性もゼロではありません。
生命を救う役目の獣医師が自分の生命を守ることは、動物の生命はもちろん、スタッフの生命、飼い主さんの生命を守ることにもつながります。
当然、ワクチン接種のリスクは考える必要がありますが、それでも、ワクチンを接種した方が良いというのが、現状出せる最適の答えです。
他にも、先生ご自身への感染を予防するため、
・入院患者はできる限り隔離状態にする
・尿は、確実に消毒できる状態、環境にする
・マスク、手袋、防護服を使用する
・消毒液でのうがい、手洗いを徹底する
・患者の尿は、消毒液で消毒してから廃棄する
など、レプトスピラ症を正しく理解し、予防することが重要です。
レプトスピラ症と並んで、近年注目を集めているのが、SFTSです。
SFTS(急性熱性血小板減少症候群)は、2011年に中国で発見された新しい感染症で、日本を含むアジアの広い地域で感染が確認されています。
マダニを介して犬猫に感染し、感染すると急性の発熱や消化器症状(食欲不振など)、出血傾向、血小板減少、DICなどの症状があらわれます。
そして、SFTSがもっとも恐ろしいのは、高い死亡率です。もし、SFTS感染猫に噛まれた場合、すぐに救急車で運ばないと50%の人は亡くなると言われています。
SFTSの患者は、これまで西日本を中心に発生していますが、患者発生地域は少しずつ広がりを見せていますので、全国どこにいても油断はできません。
今後さらに注目されるであろう恐ろしい人獣共通感染症ですが、新しい感染症のため、大学教育はもちろん、専門的に学べる機会はほとんどありません。
今回の教材では、村田先生のわかりやすい解説で、SFTSの現状と対策も学べます。
ぜひ先生も、村田先生から人獣共通感染症の診断と治療、対策と予防を学んでください。そうすれば…
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